医学論文翻訳例

マイクロポーズ(小休憩)は長時間手術に伴う外科医の疲労と手術の正確さの低下を防げるか: 実験的前向き研究

アブストラクト
目的:前向きの実験的研究を行い、手術が長引いた時の筋肉疲労およびその悪影響を防ぐためのマイクロポーズ(MP)の有効性を評価した。
背景:手術は医師の健康に危険が伴う。背痛や首痛が、急性損傷や血液感染症以上に、慢性病を引き起こす要因であることはあまり知られていない。今回調査した外科医の場合その半数以上にこの要因が認められた。20分毎に20秒の休憩を入れるMPは、現場で広く用いられている、既に認められた手段である。
方法:交差実験的研究をデザインし、16名の外科医を3回調査した。1回は術前にコントロールの出来る状態で(CTL)、2回は長時間の再現可能な手術(2時間以上)、そのうち1回が正式なMP有り(WMP)、もう1回がMP無し(WOMP)であった。筋肉疲労を、出来るだけ腕を伸ばして2.5kgの重り持つことで測定した。手術の正確さは、板の上に予め描いた線をなぞった時の失敗を測定するという方法を用いて評価した。最後に、不快感を視覚的アナログ尺度を用いて測定した。
結果:3つの全ての試験においてCTL群とWOMP群の間に統計学的に、そしてもっと重要な臨床的に有意な差を発見した。MPは手術に伴う疲労効果を完璧に又は殆ど完璧に防いだ[手術の正確さ(失敗なし)CLT:1.1、WOMP:7.7、疲労(秒数)CLT:137、WOMP:92、WMP:142]。
結論:手術は有意な筋肉疲労と関連性を持ち、簡単に測定することが可能で、快適さと手術の正確さに直接的に影響を及ぼす。もっと重要なことは、この影響はMPを行うことで完全に又は殆ど完全に防ぐことが出来る。
キーワード:マイクロポーズ(小休憩)、手術の正確さ、手術疲労、実験的研究、手術教育

 
序論:手術は、外科医の健康に危険が伴う。背痛や首痛が、急性損傷や血液感染症以上に、慢性病を引き起こす要因であることはあまり知られていない。これは多くの職業にとって1つの確立された職業病であるが、外科医を対象にしてこの問題の罹患率を調査した研究は少ない。Babar-Craig他[1]は、英国の耳鼻咽喉科医の背痛または首痛またはその両方の罹患率が72%であることを発見した。疼痛のある患者のうち53%がその症状は手術が原因であると断言していた。このことから適切な訓練が欠如していることは明らかであり、長期間の障害を防ぐための改善が必要である。さらに長時間に及ぶ手術が手術技術に及ぼす直接的影響も懸念された。この点はヘルスケアの分野においては新しい問題であるが、医療の現場の人間工学は過去50年の間に広範囲に研究が行われてきた。作業中に20分毎に20秒の小休止を入れるマイクロポーズ(MP)は、特に座業、例えばコンピューターの前に座っての仕事の作業効率を最大化するために広く受け入れられた方法である。従って本研究プロジェクトの目的は、長い手術中にMPを行った外科医と行わなかった外科医を比較して、MPは不快感を減少させ(a)、筋力と手術の正確さが改善する(b,c)という仮説を検証することである。
材料と方法
本プロジェクトはシェルブルック大学の倫理員会の承認を得た。集められたデータは厳重に管理され盲検化のもとで論文執筆者たちが分析した。
研究デザイン
本クロスオーバー研究には16名の外科医(スタッフ:10名、研修医:6名)を募集した。それぞれの外科医を3回ずつ評価した。手術前に1回行う(コントロールとする)、2時間以上を要する一般的な再現可能の手術で1回行う、同じ手術に今度は20分間隔で20秒のMPを取り入れて1回行う、の3種類の評価である。この評価の順序は学習効果の影響を防ぐために無作為に割り付けられた。全ての手続きと検査は手術室の隣にこの目的のために設営された一室で行われた。「ストレス要因」となる手術とは次のような手術である:一般外科医にとっては回復結腸切除手術、神経外科医にとっては開頭術や顕微鏡下腫瘍切除手術、頭頚部外科医にとっては耳下腺摘出術手術、心臓外科医にとっては冠動脈バイパス移植手術などであった。
マイクロポーズ
普通の料理用タイマーを用いて20分毎にアラームを鳴らした。その度に外科医たちは手術の手を休めて、作業台(=work station)を引出して、首と肩のストレッチを行うように指示された。全行程に要する時間は20秒未満であった(図1)。
不快感の評価
不快感のレベルを100ミリの視覚的アナログ尺度を用いて、目、首、上部背中、肩、肘、手首、手、下肢などを評価した。このテストは検証されなかったが、疼痛や不快感などの主観的変数を評価するための視覚的アナログ尺度を用いることの意味が論文に書かれている[2]。
疲労(体力)の評価
外科医に、静かに直立したまま利き腕で2.5kgの重りを持って、その腕を外側に15度の角度で直角に曲げ、そのままできるだけ長く静止してもらった。この簡単なテストは労働衛生関連の論文では以前から見受けられる[3]。
正確度テスト
運動生理学の同僚が開発したローテクのシステムが用いられた(図2)。外科医に、メッツェンバウム剪刀を用いて厚紙に書いた星形をなぞってもらった。境界線との接触をエラーとカウントし、自動的に記録された。この回転運動を3回繰り返した。このテストは、γ=0.955の試験・再試験信頼度で有効性が確認された。
統計
結果をグループ全体で共有した。参加者数が少ないので、年齢や勤務状態(スタッフか研修医)や手術の種類などの意味のある比較が困難であった。ボンフェローニ修正された反復測定分散分析を用いて多重比較を行った。
結果
不快感度
不快感度は、MPが「保護(protection)」を提供できなかった下肢、及びコントロールとMP有りの間に差異の無かった目を除いて、3つの状況における全ての部位で統計学的に差異が生じていた。とはいってもこれら2つとMP無しと比較すると差異は生じていた(図3)。(注:「MPがprotectionを提供できない」とは「MPの影響が及ばない」ということかもしれません。「2つ」とは「下肢」と「目」だと思います)
筋肉疲労評価
結果を図4にまとめた。MP無しの場合、2時間の手術で(2.5kgの重りの)最大保持時間が33%少なかった。MPは完全に筋肉疲労を防ぐことが出来た。
正確度テスト
正確度テストの結果を表5にまとめた。MP無しを行った後に、平均エラー数を7で乗じた。MP有りのエラー数を2倍したが、これはコントロールとは有意な差が有ったばかりでなく、休止が無かった場合とも差が有った。
考察
本調査プロジェクトによって、長時間手術と外科医の疲労、体力の低下、手術の正確さの低下との関係が初めて明らかになった。さらに重要なことは、この問題に対する解決策も発見された。初期段階の不快感の主観的評価は、SundelinとHagberg[5]も筋肉疲労が実際に誘発される前に不快感があると報告しており、重要な意味を持つ。本研究をデザインするにあたり、我々はこの点を考慮した。なぜなら疲労テストよりももっとデリケートであろうと考えたからである。この主観的評価は、筋肉疲労に関する非常に重要な研究結果であり、また期待どおりの興味深い結果であった(図2)。まず、我々が発見しなかったものこそ重要である:下肢の疲労の差を特定することは我々の全研究結果を疑う結果を招いたかもしれない。若年の研修医は早い時期に手術中に足を動かすようになる。さらに、手術台の前に何年も立っていると、直立不動の姿勢が自然に出来るようになる。肯定的な面としては、期待どおりに最大の不快感が背中と肩に感じられた。2つ目の興味深い点は、MPが長時間の手術の疲労を完全に消すことができるというわけではなく、おおよそ半減させるという事実である(例、首:36-17、P<0.05;背中53-28、P<0.05;肩:41-17、P<0.05)。
もっと客観的な最大保持テスト(筋肉疲労)の結果も同様の方向性を示したが、差は小さかった(図3)。患者を手術することは体力を大いに消耗する(MP無しで、手術前の137秒間から手術後の92秒)、しかしMPを行うことによって完全に防ぐことができる(MP有りで、手術後の142秒(P<0.001)。MP無しの手術後と比較して)これらの2つのテストを合同して、疲労には有意差があること、客観的にも主観的にも評価できること、そして防ぐことが出来ることが確認された。さらに、SundelinとHagberの、主観的不快感は筋肉疲労よりも感受性が高いという研究結果を確認することが出来た。
ある程度予期されたとはいえ、正確度テストの結果には大いに驚かされた(図4)。勿論これは、長時間手術と「人工的」正確度テストとの関連を評価している。エラーの減少が「実際の」手術ではどうなると解釈すればよいか、これから解明していかなければならない。しかしながら、本研究は我々の知る限り手術中の疲労と正確度テストとの関連性を示した最初のケースである。コントロール時での星形テストでは16名の外科医のうち11名(69%)に1つか2つのエラーがあったが、手術後にMP無しの状況では全ての外科医に4個以上のエラーがあった。平均して、エラーの数に8.5を乗じた。テストの順序は無作化されていたので、学習バイアスは除外されている。確かに、被験者は実験群に対して盲検化されていた。では「治療」群の結果を改善するために故意にエラーを犯したということは考えられるであろうか?この問題は、おそらく高い確率で本プロジェクトの弱点であろう。良い点は、この作用を中和させる2つの直感的論点を提供していることである。1つは、メッツェンバウム剪刀の使い方が意識的にでも無意識にでも下手な外科医を探すことを強くお勧めする。2つ目は、本プロジェクトの説明をしたとき、被験者たちは全員がMPの効果について懐疑的で、手術のフローを妨害するのではないかと心配した(しかし交渉した外科医の全員が参加を承諾した)。バイアスが存在していたら、コントロール群に優位な結果が出たであろう。
もし手術とその悪影響との関係を今回の実験のように実証したのは本研究が最初であるとすれば、その膨大なエビデンスが病態生理学を解明することになる。手術に代表される静的運動は筋緊張を引き起こし、それが血流の低下を、さらに代謝産物の蓄積を、そしてエネルギーの枯渇へとつながりやすい。そして結果的に不快症状や疲労を引き起こす。これは、デスクで読み物をしたり、コンピューターに向かっていたり、長時間の車の運転をしているときに誰でも経験することである。この一連のイベントはいわば「毒のスープ」に1週間に10時間から30時間も生涯に渡って浸かり続ける外科医にとってはことさら有害である。本研究の結果で、次の段階を考える必要もなくなり、筋肉疲労と不快症状の再発を慢性痛と関連付けて考える必要もなくなった。しかし他の研究はこの関連性をこれまでにも検討している。ギャリンスキ他[8]は、筋骨格疾患は最初のタスクで軽度から中程度の不快症状として生じた微視的損傷が繰り返し累積した結果であると発表している。この研究は中程度の不快症状と手術に関連する「外傷」を最初に発表した。もちろん多くの研究を重ねないと正式な因果関係は分からないが、慢性痛で悩む外科医の割合は高いという非常に興味深い洞察を得るであろう[1]。
慢性痛の潜在的原因である疲労は、外科医のQOL、ひいては健康管理にとって、大きな問題であるが、同時に実際の患者のケアにも重要な意味を持つ。ボイト他[9]が、疲労によって手術の正確さが損なわれるということを異なる環境下で証明した。我々の研究結果は、それを手術室という状況で初めて裏付けた。エラーの件数が0件から8件までの開きがあったのが一番の差異である。問題を特定し数量化することは重要であるが、解決策を見出すことがもっと重要である。我々は膨大な文献が築いてきたあとに従っただけである:すなわち、実に多くの研究が、MPを行うことで急性不快症状につながる(最終的には慢性痛につながる)静的筋運動の悪循環を断ち切ることが出来る、ということを様々な環境下で証明していた[7,10–18]。
小休止・小休憩に関する文献を完全にレビューすることは本論文の本意ではないので、もし興味のある読者がいれば、バレドとモハンのメタ解析[19]を一読されるとよい。小休止が成功するためには2つの質が高くなくてはならない。(a)まず、受動的であるよりも能動的でないといけない、(b)次に、直感的に必要とされているというよりも頻繁に必要とされていなければならない。別の言い方をすると、いつ休止を取るかの判断を任された場合、休止の数は減りその間隔が離れる。実際、ロメルト[11]は、筋運動の強度と持続時間の組み合わせである疲労回復の時間と疲労の程度が、指数関数的に関連していることを証明した。筋運動が50%増加すると、その回復に4倍長い回復時間を要する。さらに、回復が主に行われるのは休憩の前段階である。我々が20分毎に20秒の休止というフォーマットを選んだのもこういう理由からであり、これはコンピューター関連の仕事を対象にした研究文献の多くから支持されている。実験に参加した外科医からフィードバックをもらった。その多くが手術開始直後は小休止が頻繁に入るという印象で一致していた。最初の1時間が過ぎると、規則正しい小休止は歓迎され、期待された。もちろん、手術の結果に悪影響を及ぼしたと感じている者は誰もいなかった。ルールとしてはいたってシンプルで、アラームが鳴ったら何があってもそこで休止する、というものである。本研究は、手術室での作業を1時間に1分間中止することの効果を評価するためにデザインされたわけではない。鄭他[22]は、スタッフや機器の問題(スタッフのシフトの変更、機器の紛失、配置転換、ポケットベル等の問題)で手術中1時間に平均して4.1回の中断が入ったと報告したが、その後我々は、看護スタッフがこのような様々な問題に対処するためにMPを取り入れようとしていることを知った。さらに研究を進めて、手術室でのワークフローにおけるMPの役割や長所・欠点を解明する必要がある。
しかしワークフローは、MP導入に関する問題の氷山の一角にすぎない。面白いことに、研究に協力してくれた外科医たちと研究結果について議論しているときに非常に素晴らしい結果と前向きな反応があったにも関わらず、自らMPを使用する外科医は少なかった。本論文著者(耳鼻科医のS.D.とD.D.)は、厳格にこの方法に従いたくないと言い、もっと年配の現在40代後半の著者はMPを利用するようになった。コンプライアンスが低い理由の特定は難しいが、おそらく、自分には出来ないという気持ちや、自覚の欠如、怠惰、“私には構わないで”的な態度などが考えられる。重要なことは、我々は外科医を対象にしていることである。問題を克服するために我々は、看護スタッフを完全にその気にさせなければならない。また手術室看看護師が休憩の実施を強化しなければならない。その結果手術にリズムが生まれる。最後に、標準的な考え方とは逆行するが、初心者は結果が直ちに得られる長時間の複雑な手術からMPを開始するべきである。
結論としては、我々は長時間の手術(>2時間)を行った場合においてMPが筋力、手術の正確さ、疲労に与える影響について研究を行った。20分毎に20秒の小休止を入れるこの研究の全ての変数に有意な改善を見出した。これは外科医の快適性が高まることを意味する。我々は長期間の慢性的疼痛や身体的障害を減らすことができればと思っている。MPが外科的手術の正確さ、複雑さ、手術の結果との関連性などに及ぼす影響は、これから評価していかなれればならない。

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